バイオハザード

任天堂ゲームキューブ(GC)でバイオハザードがリメイクされた。バイオハザードというと、'96年、ソニーのプレイステーション(PS)で口コミを通じてじわじわと売れて、最終的にミリオンヒットを達成したサバイバルホラーゲーム、だ。

自分はPS版のバイオハザードを遊んだ事がある。といっても初期のではなく、「ディレクターズカット版」という、初期のをボリュームアップして焼き直しした、PSでのリメイク版である。

うちの家族は少し遊んだだけですぐヤメタ。

その理由は「コワイ」から。バイオハザードは、真夜中に、ある特殊警察部隊がさびれた洋館に迷い込むところからスタートする。その洋館には、ある秘密が隠されていて、あちらこちらにゾンビやゾンビ犬が出現する。プレイヤーはそれらのモンスターと対峙しながら、洋館の秘密を解き、無事に生還するのが目的である。

ゾンビやゾンビ犬が恐怖をあおる形で効果的に出現するので、生理的にダメな人は本当にダメなゲームで、ファミ通的に10点満点で評価をつけるなら、迷わず「1点」と答える人も多い。

操作感覚も独特で、一般の人は慣れるまで少し大変かもしれない。ゲーマーなら(もしくはゲーマーの素質があれば)すぐに操作に慣れる。

ディレクターズカット版を遊んだとき、ビミョーな面白さだった。なぜに「ビミョー」だったのかを説明すると、このゲームは、ゾンビを爽快になぎ倒すゲームではなく、ゾンビから上手く逃げまどうのを楽しむゲームだったからだ。

普通、テレビゲームは、ストレスを発散する目的で遊ばれるわけだけど、そういう目的でゲームを楽しむのであれば、ゾンビを皆殺しにして洋館をきれいさっぱりクリーンにできたほうが、ゲームとしては楽しいし、優れているはずである。けれどこのゲームは、ゾンビから逃げまどう事が主体で、逃げまどうそのツライ状況の中で洋館から脱出したときに、快感を覚えるという、そういったマゾ的な遊び方を提供していたのだ。

正直、PS版のほうは、1、2度クリアーして飽きた。

…はずだったのだが、PS版(ディレクターズカット版)には隠し要素があり、裏技で最初から強い武器を持った状態でスタートをする事ができるのを、飽きてしばらくしたのちに知った。

強い武器は本当に強く、むしろゾンビをおそうくらいのイキオイで遊ぶ事ができ、これがかなり楽しかった。ディズニーアニメなどでよく使われる振り子理論(?)のように、今まで不幸のどん底だった主人公が、急に天国のような幸せをつかんだみたいで、もともとが不幸でつらかっただけにそのギャップからより強く幸せ(快感)を感じられ、それがあったからこそ、バイオハザードをクソゲー呼ばわりせずに済んだ。

さて、自分はGC版のバイオハザードも買った。

買った理由は、このGC版バイオハザードにかける製作者の並々ならぬ意欲・熱意を感じたから。グラフィック(絵)は一から全部作り直して、業界トップレベルの非常に美しいものに生まれ変わった。謎解きやストーリーも、前作を遊んだ人でも楽しめるようにバランス良く変化が加わり、特にオマケ要素にはゲーム1本分のアイディアを積め込んだという。非常に高次元なレベルにバイオハザードをリバース(復活)させた事が、雑誌などからもひしと伝わってきた。

バイオハザードの生みの親でディレクターである三上真司さんは、自らを「職人」と呼ぶ。GC版バイオハザードはたしかに職人が作ったと思えるようなスバラシイ出来だった。以前遊んだバイオハザードディレクターズカット版に比べると、数十倍以上の出来で、GC版をプレイすると以前のは遊ぶ事ができなくなる。

前作と比較して、普通にプレイした際のゲームの楽しさも向上した。PSからGCになった事で処理速度が上がり、ゲームのテンポが恐ろしく良くなり、キャラクターも大幅に魅力的になった。バイオハザードでは最初、主人公に男のクリスと女のジルの2人のうちどちらかを選ぶ事ができるのだが、特に女のほうのジルの魅力が以前に比べるとまったく別物と言って良いくらいに向上した。

今回、バイオハザードをプレイしていて、トゥームレイダー(ヨーロッパでスゴイ人気を博していて映画にもなったテレビゲーム)がなぜ人気なのかがわかった気がした。もしトゥームレイダーがGC版バイオハザードと同じくらいのクオリティー(質)を実現するようになったのなら、トゥームレイダーの主人公であるララ・クロフトは尚更多大な人気を得るのではないだろうか。ホラーや冒険物などは、女性や子供を主人公に据えたほうがどうも良い傾向がある。男性の身に降りかかる恐怖と女性や子供の身に降りかかる恐怖とは、どうしても異質なものにならざるをえない。更にいうと、よく心理学でいわれる「恐怖心は異性への恋愛感情にすりかわりやすい」という例をふまえて、男性ユーザーの多いテレビゲームでは女性キャラクターを効果的に出演させるのが大事になってくる気がする。バイオハザードはクリスにしてもジルにしても外人がモデルになっているが、もし舞台を日本に移し、日本人の物語となった場合、よりリアルにプレイヤーの心理を揺さぶるのではないだろうか。

このゲームは、優秀なスタッフが気合いをこめて制作しただけあって、買う価値はじゅうぶんあるのだけど、一つだけ難点が…。それは、先にも書いた「振り子理論」が今度は適用されていないという事。

今度のGC版は、とことんマゾヒスティックである。強い武器はそれなりに入手できるが、本当の意味で爽快を得られるマグナム系の武器(一撃でゾンビの首を気持ち良くふっとばす事ができる)が手に入らず、更にはオマケモードも、マゾ的な遊びを追求したものばかりで、挙句の果てには、何度かクリアーすると「手榴弾ゾンビ(体にたくさんの手榴弾をぶら下げていて、攻撃すると爆発して一瞬でジ・エンド)」が現れるようになり、爽快感とはほとんど無縁、一種の挑戦状を叩きつけられたような、非常に硬派でクールなゲームに仕上がっている。

それはそれで素晴らしく良くできていて、クリアーしたときの達成感はこの上ないものかもしれないけれど、今のゲーマーは日本の教育と同じく軟弱になってきているので、これを面白がってプレイするユーザーは少数派だ。開発者の雑誌インタビューなどを読むと、あえてその少数派に向けて、(ただ、その少数派はある意味「精鋭」といえるが、)意図して作っているらしく、まぁそういう事ならばしょうがないのかもしれないけれど、軟弱なプレイヤーに向けても何かしらの対策をとってもらいたいところだった。

実はこのゲームは売れ行きがあまり良くない。現時点では発売初週で10万本と少ししか売れていない。これはGC(ゲームキューブ)というハードが足を引っ張った可能性と、アンチな人(先にも書いたような「1点」をつける人)が多い事と、ただの焼き直しじゃないか?と安く見積もられた事と、いろんな要素が重なってしまったせいだと思う。各メディアで広範囲に宣伝していただけに、開発チームは少しガックリきているかもしれない。ただ自分は、このゲームの出来にはとても感動したし、だからこそこんな文章を書いている。余程のゲームでないと感想を書く時間さえムダというかモッタイナイし。

宣伝の上で個人的に「これが失敗だったんじゃないか?」と思うのは、クリムゾンヘッドという新ゾンビの情報を、ゲーム発売直前に露出した点だ。直前に情報を流したせいかどのバイオハザードの記事もクリムゾンヘッドばかりを大きく取り上げて、「新作=クリムゾンヘッド」という図式が成り立つくらいのイキオイだった。クリムゾンヘッドの存在を聞いてワクワクする人はそんなにいないだろうし、むしろゾンビが復活してくると聞いて買う気を失った人が多いのじゃないかなと。でも、クリムゾンヘッドの情報がなければより一層「前作の焼き直し」と思われていただろうし、結局、どうしたら一番ベストだったのだろうか…。

インターネット上においてよく聞くのは、「ゲーム1本分のオマケ要素とはこれだけなのか?」という声だ。現時点でわかっている隠し要素は、「ゲーム1本分にたとえるのにはちょっとオオゲサじゃん」という程度のものしかない。たしかにやり込めばゲーム1本分の値打ちが出てくるのかもしれないけれど、それにしてもなんだかビミョーな感じ。まだ他に隠し要素があるのではとにらんでいる人も多いが、事実そうである事を祈るばかり。もし、新たな隠し要素が発見されたなら、また文を付け足す。発見されなかったらこのまま…。

('02年04月02日制作)

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