化学物質過敏症

文春新書から「化学物質過敏症」という本が出ている。著者は柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫の3人で、初版は2002年2月20日となっている。自分は'02年の3月に本屋で見かけ、なんとなく買ってみた。

化学物質過敏症とは文字通り、化学物質に対して過敏に反応を起こす症状の事をいう。いわゆるアレルギー反応の一種で、花粉症のように生活の支障をきたす可能性の多い病気である。花粉症に軽度なものと重度なものがあるように、化学物質過敏症にも軽度なものと重度なものが存在する。

花粉症において、軽度なものは生活への支障があまり見受けられないが、重度なものとなると、目がかゆくて涙がボロボロ出たり、鼻がかゆくて鼻水が滝のように流れたり、「目を取り出して水でゴシゴシ洗いたい!」と口にする人もいるほど、ツライ症状を引き起こす。そういう状態では当然に生活への支障が出てくるし、ストレスも貯まって普段通りの日常を送れない。非常に不幸な状態である。

とはいえ、花粉症の多くは期間が限定されていて、たとえば杉花粉の場合、3月から4月あたりの期間さえ乗り越えれば、症状が緩和して普通の日常を過ごす事ができる。年中苦しまなくて良いのがせめてもの救いだ。

さて、化学物質過敏症はどうかというと、軽度なものは花粉症と同様、それほどに生活への支障は見受けられない。現に、アメリカ人の10%ほどがすでにこの病気に罹患している。これは日本人の4人に1人が花粉症に罹患しているのと同義で、罹患しているからといって生活をいちじるしく損ねている人ばかりとはいえない。

軽度なものはそれほど被害がないとして、重度なものはかなりの被害をこうむる。花粉症と同様、いやそれ以上に、生活に多大な支障が生まれる。

化学物質というのは今の世の中どこにでも存在する。花粉症でいえば身の回りのあちこちがすべて花粉まみれの状態、まったく逃げ場がないのである。

少しばかり本で紹介されていた化学物質の事例を書くと、

・ボールペンなどのインク類。新聞や本もインクのせいで読めない。
・市販のシャンプーやリンス、合成洗剤、漂白剤、整髪料、化粧品、香水など。自分自身が使えないばかりかこれらを使った人にも近寄れない。
・洗剤や農薬で育った野菜が置いてあるスーパー、本や接着剤を使った棚のある図書館、さまざまな薬品臭で充満している病院などに行く事ができない。友人や親戚といった普通の家にさえも行けない。
・添加物、農薬を使用した食物は食べれない。
・自動車に乗れない。(自動車には多量の化学物質が使用されているため。)自動車に乗った人の匂いにも耐えられない。
・交通量の多い道路は排気ガスのせいで歩けない。
・電車やバスなどの交通機関もまったく乗れない。
・掃除機、冷暖房器具は使えない。
・パソコンなどのコンピュータ類も使えない。(原因は不明だが電磁波が影響している可能性があるとか。)
・水道水も塩素のせいで飲めない。
・新しい衣類や化学繊維の衣類はまったく着れない。
・美容院に行けない。(事情を話して準備万端で自宅に着てもらうしかない。)

…以上。

はっきりいって、これだけ制限されてしまうのは、不幸としかいいようがない。現代人らしい生活がまったくできない状態に陥ってしまう。「どうやって生活すればいいんだ!」と本気で考えてしまう。そもそも、化学物質過敏症は先天的なものではなく後天的なもので、欠陥住宅に住みこんだりする事で、そこで多量に発生している化学物質を吸い込み、じょじょに症状を悪化させ、過敏症へと変化していく。

そういった症例を「シックハウス症候群」というのだが、欠陥住宅にしてもなんにしても、新居に移る人の多くは新婚さんだったり家庭持ちだったりする。化学物質が多量に発生するその家で、赤ちゃんや小さな子供が育つとなると、当然、化学物質過敏症を引き起こす。

これは本当にかわいそうでならない。

まだ生まれていない赤ちゃんにしても、母親の胎内で猛毒となる化学物質を吸収するわけだから、異変をもたらさずにいられない。まだ肌などが弱々しく、一番の成長段階にある赤ちゃんが、化学物質にさらされるというのは、その後の人生に与える影響ははかりしれないものがある。

これは「急激に化学物質過敏症になる例」であるわけだけど、実際、化学物質は身の回りのあちこちに存在するわけだから、日本に生活している人の多くは気付かぬ間に少しずつ汚染され、過敏症になりつつあるとみて良い。

化学物質過敏症の症例としては下のようなものがあげられるという。

重度の手前、軽度で起こる症状は、

・頭痛がする。
・だるくなる。塞ぎ込んで何もしたくなくなる。
・息を深く吸えなくなる。
・イライラしたり、落ち込んだり、わけもなく涙が流れたり、感情のコントロールがきかなくなる。
・怒りっぽくなってキレやすくなる。

…など。(他にもある。)

重度になると更に多くの症例が発生。

・吐き気がともなう頭が割れそうな痛み。立ちあがる事や口を聞く事さえできない。
・筋肉、関節、骨、歯ぐき、目、のど、舌のすべてが痛む。
・頭がグルグルと回転するような症状。
・耳鳴りや、耳に何かが詰まっているような感覚。
・鼻血が出る。
・意識もうろう。
・動悸が激しくなる。息切れする。
・アトピー症状。

…など。

軽度の症状に目を向けると、「キレやすい」「だるい」「感情のコントロールがきかない」など、現代の若者に通じる点が多いのがわかる。実際にツナガリがあるのかどうかはわかっていないが、じゅうぶん可能性があると個人的に思う。

重度のほうはというと、本当にひどい状態である事がわかってもらえたのではないか。これだけ多くのつらい症状を起こす上に、症状を起こす要因となる化学物質が生活の周りを完全に覆っているのだから、平穏な生活を送れるわけはなく、極度のストレス状態に陥るのが目にみえている。想像するだけでも耐えられない生活だ。

自分の考えだが、重度の化学物質過敏症患者に対しては本当に「思いやり」が必要になってくる。彼らと会話しようと思ったなら、服装や髪などから化学物質成分をなるべく除かなくてはならないし、タバコを吸っている人ならタバコをやめて、会う場所もなるべく人通りが少なく、化学物質の匂いのしないところを選ばなければならない。

残念ながら人間の多くは自己中心的で、たとえ家族や恋人といった身近な存在でもそこまで思いやれないのが大勢いる。自分も自己中心的な人間の1人で、重度の化学物質過敏症の人と実際にコミュニケーションをとる機会がもしあったとして、どこまで彼らに寄り添えるかは自信が持てない。

シャンプーやリンスで髪の毛をサラサラにしたり、髪の毛を整髪料でキレイに整えたり、合成素材のカッコ良い服を着たり、タバコを吸ったり、人のたくさんいる場所を歩いたり、…そういった行為を、ごく当然として、行いたい欲望がある。健康な人であればダレでも普通に、知らず知らずのうちに満たしている欲望を、彼らは満たす事ができない。学校すら、廊下のワックスやなんやらの物理的な障害、教師や他の生徒の無理解からなる心理的な障害によって、満足に通えない状態に陥る。

この本は、化学物質過敏症について非常によく書かれているので、この病気について無知な人は読んでほしい。一見の価値がある。

自分はこれを読んで、化学物質過敏症が(重度になると)本当に不幸な病気である事を理解したし、先程も書いたようにこの病気が日本そして世界の将来に暗雲をもたらす可能性も感じたし、いまだ思いやりのある施策を講じない日本政府に対して憤りを覚えたし、何よりも一番は、「無視できない!」という思いがした。

読んだとき、「何かボランティアがしたい」と思ったのだけど、情けない事に「思うだけ」になってしまっている。自分でもやれそうな活動、たとえば募金活動などを全国的に展開してもらえたら、自分はすぐにでも寄付をしたい。(というより、自分でそういった活動を起こしていくべきなんだろうか…。ムリっぽい。)

三宅島の噴火の際にも寄付をしたのだけど、三宅島の島民も大変つらい立場でかわいそうに思ったものの、個人的にはこちらのほうがもっとつらいという気がする。

本を読んだ知識だけではまだまだなので、今度はテレビなどの映像で知識を補完していきたい。



参考:ヤフーの化学物質過敏症のカテゴリ
参考:化学物質過敏症支援センター←要チェック!一番のおすすめページ。
参考:シックハウスを考える会
参考:住まいの科学情報センター

('02年04月20日制作)

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