寄生獣
(ネタバレ無しの内容です。本作を読んでいない人はインターネットに漂うネタバレのページを見ないまま本作を読むべき。そこらに漂うページは本当に思いやりのない、つまらなくするページばかり。危険です。) 寄生獣(きせいじゅう)を知ったのは自分が中学生の頃。当時のクラスメートが「寄生獣というマンガがおもしろいよ」と話してくれたのがそもそもの始まりだった。 近くの本屋で立ち読みしたのだけど、本当におもしろかった。まず1巻で心をぐっと掴まれて、4、5巻くらいまでを一気に読んだ。読んだあと、「この作品は買っておいて損はないな」と思い、3巻までをとりあえず買った。 当時まだ「アフタヌーン」という月刊のマンガ雑誌にて連載中で、ストーリーはまだ終わりをみていなかった。寄生獣をキッカケにアフタヌーンをのぞいて見たのを記憶しているが、その中で、頭が変形している女の人が、けらけら笑いながら街中を走っているシーンがあった。そのシーンに、思わず「……」となった、と同時に、「単行本になるまでストーリーは読まないでおこう(楽しみにしておきたい)」と思い、雑誌を閉じた。 買った1〜3巻を何度も読み返した。3巻の最後でストーリーがいったんの結末を迎えていて区切りが良く、読み返すのにとても好都合だった。3巻まででも十分に「寄生獣」を堪能できたし、区切りが良いので「この先一体どうなるんだ…」という妙なストレスも感じず、ひたすらにその3冊を読み返した。 寄生獣を紹介してくれたのとは別のクラスメート(2人)がうちに遊びにきたとき、彼らも寄生獣を手にした途端オオハマリした。「オモシロイ!」と言って帰っていったのだけど、その日しばらくして近くの本屋に行ってみたら、まだそこに2人がいて、続きを立ち読みしていた。 世間的にも寄生獣は人気を集め始めていた。何かの漫画賞を受賞したりもしたし、本屋の目立つところに並べられて、ダレもが手にとってチェックしやすい状態にあった。 このマンガは「絵は下手だが…」という説明付きで評される事が多かった。本屋の宣伝広告にしても雑誌記事の評論にしても、「絵は下手だけど重厚なストーリーでどうのこうの…」というものばかりであった。 実際「上手い」とはいえなかったけれど、そんなしつこく言うほどでもないという気がする。変にコギレイな絵だったならば、リアリティーに欠けたと自分は思う。自分はあの絵にあのストーリーだったからこの作品を好きになった。あのストーリーを描くのにはぴったりの絵だと強く思う。 いつしか雑誌で最終回を迎え、最後の10巻が発売され、寄生獣の物語の幕が閉じた。最後までクヲリティーを落とさず、変に間延びもせず、最良な形で終わった。作者の岩明均さんはバランス感覚を上手く発揮したと思う。 そう感じたにも関わらず、自分は、3巻から先は買わないまま、時を過ごしていた。2、3年したある日、うちの家族が残りの巻を突然買ってきた。とともに、自分の持っていた1〜3巻を取り上げて引越し先に持っていってしまった。(自分が了承したから持っていかれたわけだけど…。) 1年に1度その家に行く。その家には他にもマンガがずらりと並んでいる。自分はまず寄生獣を手にする。どの作品よりも早く目を通す。他のマンガは、読んだり、読まなかったりする。 この作品について、今も昔も変わらず好きな点を挙げる。 まず一つ目に、未知なる生物「寄生獣」の描写がオモシロイ事。 寄生獣なる生物は当然この世には存在せず、絵を描く上で参考になるような資料は一つもないはずである。それにも関わらず、非常にリアルで生々しい像を描いていて、その造形を眺めるだけでも楽しむ事ができる。 二つ目に、物語のメッセージ性が強い事。 数あるマンガの中には、メッセージ性の無い、ただ勢いだけの作品も多い。無いばかりか間違ったメッセージを伝えているものだってある。寄生獣は、正しい事を正しく伝えているという気がする。読んで考えさせられるし、考えさせられる内容は決して低次元なものではない。 三つ目に、登場人物達のセリフ回しが優れている事。 名言と呼んで差し支えないセリフが多い。このマンガは(個人的な想像によるが)作者がかなりセリフ回しに心を砕いている気がする。セリフがかっこ良く、内容も、幼稚な哲学がつきまとっていないので心に残りやすい。いくらかっこ良いセリフでも稚拙な考えを元に吐かれたのでは寒々しいものがあるが、このマンガのセリフはそういった寒々しさとは無縁だ。 最後に、すべての「バランス」がとれている事。 セリフにしてもストーリーにしても人物描写にしてもその他たくさんの事にしても、すべてがバランス良く構成されている。1巻から10巻まで読んだとき、どの巻もしっかり自己主張をしていて、「この巻はツマラナイ」とか「この巻は要らない」とか「この巻はダントツでオモシロイ」とか、そういった「ムラ」は見られない。オタク臭さもまったくなく、Hなシーンもムダにいやらしくなく、非常に「教科書的」な作品だ。中学校や高校で推薦図書にしても良いくらいだ。←オオゲサでなくて。 この作品は結果として爆発的な人気を得たのだが、人気が収縮してから古本屋に売る人が続出し、古書として多量に出回るようになったらしい。自分はインターネットを通じてその話を知り、「世の中そういうものか…」とちょっとしみじみした。ただその話が本当かどうかはよくわからない。あくまでインターネットだし、一部地域の事をオオゲサに書きたてたものだったのかもしれない。 自分はモノを問わず中古品には興味がないので、古本屋にもほとんど行った試しがない。けれど1度だけ、東京原宿のブックオフに行ったとき、置いているかどうかをチェックしてみた事がある。 寄生獣は置いているには置いてあったが、いくつも巻が欠けた状態で、3、4冊しか置いていなかった。1つの巻につき数冊ずつ置いているんじゃないかと冷や冷やしていたのだけど、予想とは違い、少し安心した。 寄生獣をまだ読んでいないという人は、3巻までぜひ読んでもらいたい。知り合いから借りてみたり、古本屋で買ったり、Amazon.co.jpで買ったり、マンガ喫茶を利用したり、立ち読みしたり、いろんな手があると思う。先にも書いたように3巻まででストーリーがだいたい一段落している。(よく思い出してみると、3巻の後半で新たな展開が少し繰り広げられているのだが、さほど気にならないと思う。自分は気にならなかった。)もし3巻まででオモシロイと思ったなら続きを読むと良い。 この作品にはインターネットにファンサイトが存在しない。もともとそういった同人的な盛り上がりをみせる質の作品ではないけど、個人的にはファンサイトがあって悪くない作品と思っている。もしデータの充実したキレイなサイトを作る人、もしくは作るつもりの人がいたなら、自分にも声をかけてほしい。「作ってくれ」という話を持ちかけてくれてもうれしい。声が多ければ作ってみたい。(1人じゃムリ。) 何かあれば掲示板やメールで話を聞かせてください。 ('02年04月21日制作) |