多重人格探偵サイコ

田島昭宇作画、大塚英志原作のマンガ。自分が田島昭宇の仕事で興味あるのはこの「多重人格探偵サイコ」だけだし、大塚英志の仕事で興味あるのはこの「多重人格探偵サイコ」だけ。

まず絵を描いているほうの田島昭宇について。この人はありていに言うと「絵がウマイ」。この人でないと描けない世界観がある。田島昭宇公認サイト「ゴリラキック」でほんの少しだけ彼の絵を見れる。(ゴリラキック自体の更新頻度は少ない。)

大塚英志について。彼は評論家という顔を持っていて、自分はまだ10代の頃、たまに彼の評論を読む機会を得たりしていた。特に記憶にあるのは「ぼくと宮崎勤の'80年代」という、サブカル、おたく文化などを論じたもので、これにはいろいろと学ばせてもらった。

まぁでも大塚英志の評論を読んでいたのは10代後半で、20代になると興味が失せた。なんというか、個人的な感想だが、彼の評論を飽く事なく読んでいては病気になってしまうというか、途中で、「あまりマジメに読むのはいかん!」と思い、引き返してきた。

読んでいた当時はいたってマジメに読んでいた。大塚英志もいたってマジメに評論していた。でも今は、いたってマジメに評論している大塚英志が、まるで評論という「ゲーム」を楽しんでいるようにしか見えなくなった。年を取って、皆けっこうイイカゲンに生きている事を知ってしまったせいかもしれない。

ゲームだとしても非常にオモシロイゲームだった。大塚英志は頭が良いと思った。この人の原作であればある程度の「正しい事」が保証されている気がした。

当時新刊だった3巻を新宿紀伊国屋で手にした。1999年の2月頃だと思う。その頃の自分は精神病などに興味があり、買ったその日もカバンの中に「精神分裂病」という題の新書を忍ばせていたのを覚えている。

3巻から読んだので主人公のバックグラウンドなどよくわからぬままだったのだが、それでも十分に楽しめた。もともとこの作品は謎の多い運びとなっていて、その謎の多さが「エヴァンゲリオン」を匂わせた。派手なアクションも多く、エンターテイメントとしても楽しめ、「殺し」や「狂気」というものが実にスタイリッシュにカッコ良く描かれている。

「殺し」を「カッコ良く」なんて言ってしまうと問題あるが、否定しようがない。実際、インモラルな作品だと思う。でもソレを楽しむ作品であって、ソレを楽しめないのであればこの作品とは縁がない。

多重人格者である主人公のもっとも危険な人格、「西園伸二」が表出すると、途端に展開がオモシロクナル。いわゆる「覚醒」の状態というか、不謹慎ながら読む者をワクワクさせる。実にカッコ良い。

この作品の魅力は、「カッコ良く描かれた狂気」というしかない。謎解きなどは自分にはつまらなく、はっきり言って謎のままで終わっても良いくらいだ。謎が溶けていくと逆にシラケル。

3巻を紀伊国屋で買ってから、地元の長野に帰った自分は、駅前の大きな書店などで1巻と2巻を探したのだが、どこにも売っていなかった。なのでわざわざ書店に取り寄せてもらった。4巻、5巻と進んでいくうちに、じょじょに長野の書店でも置くようになったが、東京はともかく地方での知名度の低さを感じずにいられなかった。

あとになって思ったのだが、主人公の姿はたぶん宮台真司をモチーフにしている気がする。大塚英志の評論の中でも何度となく宮台真司の名前が出てきているし、宮台真司の写真を見る度にどうしてもモチーフにしたとしか思えない。1巻に出てくる小林洋介の彼女、千鶴子について、千鶴子という名前はどうしても上野千鶴子を思い浮かばせる。

この作品は昔から、最終的に上手く話がまとまるのか危惧されている節があって、今もその只中、ヘタしたらこの先ツマラナイ展開になって作品が死亡する可能性がある。まぁでも、画竜点睛を欠いて、いわゆる未完のままで終わったとしても、この作品らしいかと個人的に思う。変にキッチリ終わったら妙に思うかもしれない。

しかし、本当に世界観がカッコ良い。これに比べたら、ほんと自分はダッサイ生活しているなって感じ。少しは近付けていかないといけない。



参考:島津歯科診療所←ファンサイト。リンクであちこち見回ろう。
参考:大塚英志関連リンク集←ダレだこんな便利なものを作ったのは。
参考:多重人格探偵サイコ新公式サイト←'02年5月24日オープン。

('02年05月12日制作)('02年05月28日追記)

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