タクティクスオウガ

このゲームはイヤになるくらい遊んだ。自分のもっとも好きなゲームの1つである。発売されたのは1995年10月6日。発売日に買ったのを今でも覚えている。スーパーファミコンのゲームで、価格は11400円であった。(当時はカセットの値段が本当に高く、10000円前後のものがほとんどだった。)

自分はこのゲームを半年以上(もしかしたら1年近く?)も前から楽しみにしていた。半年程前、このゲームの開発画面写真が各ゲーム雑誌に掲載された。普段通りゲーム雑誌を立ち読みしていた自分は、この画面写真を見た瞬間に思いきり衝撃を受けた。

あまりに美しく魅力的なゲーム画面だった。各雑誌で1、2ページに渡って掲載されていたと思うのだが、あまりに魅力的だったため、自分はその記事を何度も何度も書店でチェックした。結局その1、2ページのために普段立ち読みで済ませている各ゲーム雑誌すべてを買った。それくらい強烈に「ヒトメボレ」してしまったテレビゲームは自分にはこの作品しかない。

その記事を眺めているだけで楽しく、発売日が非常に待ち遠しかった。しかし、発売されるのは半年以上も先の話で、この「待ち時間」が非常にツラカッタ。例えるなら、強烈にヒトメボレした相手と半年以上も会えないようなもの。これは本当に辛い状況で、半年もの間、そわそわそわそわしてならなかった。発売日に向けてゲーム雑誌で情報が少しずつ小出しされるのがせめてもの救いだった。本当にツラカッタ。

半年以上も待たされてようやく発売日を迎え、飛びつくようにしてすぐさまカセットを入手、さっそくプレイした。ゲームを始めてオープニング画面、見た瞬間「おお!」と思った。こんなにセンスの良い美しい画面は今まで一度も見た事がなかった。半年待たされた甲斐があったと本気で思った。

このゲームはだいぶ難しく、メンドウなシステムを搭載している。ゲームシステムだけで判断するならあまり魅力的とは思えない。ただ、何度もいうようにグラフィック(絵)が本当に素晴らしく、当時の他のゲームとは比較にならない程に魅力的に映った。自分にとったら「このゲームしかない!」というくらいに他のゲームへの興味を失わせた。このグラフィックだからメンドウなシステムもまったく苦にならず、むしろ楽しくて面白くてしょうがなかった。

グラフィックばかりでなく、ストーリーや登場人物、いわゆる「世界観」が、恐ろしくカッコ良かった。セリフ回しも最高で、こんなにカッコ良くてダサさの微塵も感じさせないゲームは初めてのような気がした。奥が深く、クリア後のお楽しみや何度も遊びたくなるような仕掛けが多数用意されていて、その点でもとても満足した。

自分には100点満点のゲームだった。つまり、「この世界に浸っているだけで楽しい」という、自分という人間を廃人にしかねない程の破壊的な魅力を持っていた。もしこのゲームが永久に続くオンラインゲームのような形態だったら自分は間違いなく廃人と化したと思う。

実際、意味もなくこのゲームを遊ぶ日々が続いた。キャラクターのアニメーション的な動きを見ているだけでも楽しく、ただただひたすらにやり込んだ。これだけ遊んだゲームはタクティクスオウガとポケモンの2種しかないのだが、ポケモンについては関連製品が次々と発売されて総体的にプレイ時間が増えているだけなので、実質的にはタクティクスオウガ(1作品)におけるハマリ具合のほうが強烈である。

このゲームを作った「QUEST(クエスト)」には心底敬服した。タクティクスオウガをキッカケにして過去の作品の「伝説のオウガバトル」も遊んでみたのだが、これもまぁまぁオモシロカッタ。(オモシロカッタが100点満点はつけられなかった。タクティクスオウガというゲームが生まれ出るためのオードブル的な存在だと自分は考える。) タクティクスオウガの存在で、今後のクエストのゲームは非常に期待が持てる、これからも注目していこうという気持ちになった。

しかしある日、衝撃的な事実を知る。

たしかファミ通の中でその記事を目にしたのだが、なんと、タクティクスオウガに深くたずさわった開発スタッフの何人かがスクウェアに引き抜かれてしまっているというのだ。特にディレクターの松野泰己さんが引き抜かれて今はもうクエストにいないという話には驚きを隠せなかった。その話を聞いてすぐ、クエストの次回作がどうしようもなく心配になってきた。

のちに聞いた情報では、彼らはタクティクスオウガの完成後(発売前)にクエストを退職し、スクウェアに移籍したという事だった。引き抜かれたのではなくただの「転職」だという事で、ゲーム業界ではステップアップのために大手企業に転職するのはよくある話で、ただそれが松野泰己という有名クリエイターだったものだから「引き抜き」にまで騒ぎが発展してしまったらしい。松野泰己の他にメインイラストなどを手掛けた吉田明彦、グラフィックデザイナーの皆川裕史の3人がスクウェアに同時に転職していて、この3人ともが非常に才能に溢れる人なのでますますもってクエストがピンチに思われた。

案の定というかなんというか、その後のクエストの作品はぱっとしない。まず初めに発売されたNINTENDO64用のゲームソフト「オウガバトル64」は、あまりにグラフィックがへぼくなって、ゲーム雑誌でそれを見たときには「ああ、やっぱり」とショックを隠し切れなかった。発売後しばらくしてから秋葉原に行ってみると、ソフトが叩き売り状態でめちゃくちゃ安い値段で売られていた。悲しくなったもののまだ買っていなかった自分は攻略本とともに買ってきた。1、2時間遊んだがガマンしきれず、次の日に売った。ひどい話ではあるが、タクティクスオウガが心底好きだった自分には、オウガバトル64はとても遊べなかった。他の人の話ではじゅうぶんこのゲームもオモシロイらしいのだが、自分には耐えられない。

次にゲームボーイアドバンス用の「タクティクスオウガ外伝」を買った。このゲームは見た目はタクティクスオウガと近いのだが、グラフィック、登場人物、ストーリーにはこれといったインスピレーションを感じない。システム的にも少し改良が見られ、それを良いという人もいれば悪いという人もいた。自分はどちらかというと良いと思ったけれど、不満な点も少し散見された。

タクティクスオウガ外伝での1番の不満点は「セリフ回し」である。セリフ回しがちっともカッコ良くなくて、感情移入がしにくい。グラフィック、特にキャラクターイラストがタクティクスオウガに比べると質が落ちていて、それも感情移入を妨げた。セリフ回しとキャライラストさえタクティクスオウガ並であれば自分は何度も遊んだと思う。一度クリアしてオマケ要素を遊んだりキャラのパラメータを少しこだわって育てたらそれで満足してしまい、2周目は遊んでいない。

クエストは自分にとって芳しくなくなったが、世間一般のソフトウェア会社と比べればまだ良作といえる部類の作品を制作し続けていた。あまりにタクティクスオウガがスゴカッタためにそれと比較して見劣りしているように思ってしまうわけだが、決して駄作を制作しているわけではない。

さて、スクウェアに行った3人(他にも数人)のほうはどうか。

こちらの3人は1997年6月20日に「ファイナルファンタジータクティクス(FFT)」を発売した。この作品はスクウェアの看板作品であるファイナルファンタジーをモチーフにしてはいるが、さすがタクティクスオウガの主要スタッフが関わっただけに、タクティクスオウガの正統進化を思わせる非常に見事な出来映えだった。発売日にこの作品を手にしたが、非常にセンスの良い画面でかなりタクティクスオウガを思わせた。と同時に、(まだ当時はオウガバトル64が発売されていなかったのだが、)クエストに対する不安がいよいよ増してきた。

FFTは悪くはないのだが、自分はこの作品でガッカリした点が多い。

まず1つ目に、シリアスな展開の割にキャラクターイラストが可愛くなってしまったのが気になった。イラストを描いたのはタクティクスオウガと同じ吉田明彦氏。これは好みの問題だが、自分はどちらかというとストーリーに合わせてそれなりにクールなイラストにしてもらえたほうが良かった。

次にストーリー。自分はタクティクスオウガの焼き直しかと一瞬思った。よく見ればそれほどソックリでもないのだが、ソックリでないにしても全体の流れが似ていて、「この人(松野さん)はこういう話しか作れないのか!」と当時少しショックを覚えた。タクティクスオウガを遊んだとき、なんて重厚なストーリーを作るんだろうと感銘した事があって、この人はいろんな引き出しを持っているんだろうなぁと勝手に想像していたので、この作品で、なんだか彼の限界を見てしまった気がして言葉が出なかった。

そうは言ってもストーリー自体はよく出来ている。カッコ良いエピソードも多く登場するし、「この人は本当に才能があるな。自分もこういう風になれたらな。」と思わされたのはゲーム業界においては唯一この人だけ。ガッカリしたといっても他のクリエイターよりは断然に尊敬している。(ちなみにクエスト出身の皆川裕史さんや岩田匡治さん、崎元仁さんに関しても非常に尊敬しているけど、あまりメディアへの露出がないので代表として松野さんを尊敬する事にしている。)

話を戻してもう1つ気になったのは「ゲームの細かい箇所」について。今でも覚えているのは、「アルテマ」という技を覚えさせるのにあるステージの1回限りしかチャンスがないという事、すべてのジョブとアビリティを覚えさせてもFF5の「すっぴん」のような特別な効力が発揮されない事、有名な源氏シリーズが敵専用アイテムになっている事、など。特にアルテマについては相当やり込んだあとにその事実を知り、今からじゃ覚えさせる事のできないという事実にがく然とした。

レベルの下がる罠でレベルを下げてモノマネ士でレベルアップしてパラメータを強くするといった行為を何度か繰り返したあと、さすがに飽きて遊ぶのをヤメタ。プレイステーションのロード時間によるテンポの悪さも気になっていて、そういうのがなければもう少しは遊んでいたかと思う。

この作品は自分の中ではタクティクスオウガより劣って見えた。「やはりスタッフが分裂してしまったのは良くなかったのでは」という気がした。でも、その後にクエストから発売された作品を見ると、タクティクスオウガで核を担ったスタッフがスクウェアに移籍した事をあらためて強く感じざるをえなかった。FFタクティクスのほうがタクティクスオウガの血を色濃く継承していると自分は思ったし、タクティクスオウガに感じた「センスの良さ」は、その8割方がFFT、ひいてはスクウェアに移行してしまったように見えた。

松野氏らはその後もベイグラントストーリーといった作品を制作。松野氏が関わっているかは知らないが、サガフロンティア2を見た瞬間、「あ、オウガのスタッフが関わっているな」と感じた。これらの作品はうちのプレイステーションが壊れてしまって遊んだ事がないのだが、もし壊れていなければ間違いなく遊んでいたと思う。(買い直してまでは遊ぶ気がしなかった。評判がイマイチだったので。)

ファミ通の「読者が選ぶTOP20」に、スーパーファミコンの作品で唯一タクティクスオウガだけがいつまでも20位以内に顔を出していた。それを見る度に、あのゲームにホレた人がいかに多いかを再認識させられた。今はもうタクティクスオウガのような作品は生まれ出ないだろうと半ばあきらめている。生まれ出なくてもそれはそれで構わず、似たような作品をただ出されてもタクティクスオウガの存在の希少性が減るのでむしろやめてもらいたかったりする。

しかし2002年3月の下旬、クエストとスクウェアの新たな動きがニュースとなる。

それは、伝説のオウガバトルやタクティクスオウガなどのいわゆる「オウガバトルシリーズ」の版権が、クエストからスクウェアに受け渡されたというニュースだった。版権が移った事で、松野氏がまたオウガシリーズを手掛ける可能性が濃厚になってきた。

松野氏はFF12の制作にも深くたずさわっていて、この作品を2003年にスクウェアの看板作品として発表、発売する予定。それもかなり期待されるのだが、その後に展開するであろうオウガバトルシリーズの動向もかなり注目だ。ここしばらく彼らから目を離せそうにない。



参考:OGRE NOT OFFICIAL FAN PAGE←オウガ関連のポータル的サイト。
参考:タクティクスオウガ宝物庫←情報量がスゴイ。
参考:オウガ・オーグ←改造系のデータが充実。
参考:オウガバトルフリーク2←創作「毒デニム」がオモシロイ。

(以上のサイトは個人的に昔からお世話になっているサイト。タクティクスオウガは人気なので他にも数限りなくスバラシイサイトが存在する。紹介しきれない。以下には、検索してオモシロイと思ったタクティクスオウガの評論や情報ページを掲載しておく。)

参考:松野オウガ復活への道のり。←詳細をわかりやすくまとめてある。必見。
参考:クイーンとFFタクティクス←非常に興味深い評論。オウガファンならこれくらいは知っていないとダメ。

('02年05月04日制作)

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