事の始まり

自分が芸能人(特にアイドルの類)に興味を持ったのは17、8のときだ。それまではまったく興味がなかったのだけど、あるとき、ある1人の女のコに目を奪われて、とはいってもそれまでまったく興味のない分野だっただけに、なんとなく意識する程度だったのだが、その後、当時買っていた雑誌に次々と登場して、尚更にそのコを注目するようになり、昔、夜遅くにやっていたランキング王国(だっけ?)をたまたま見ていたら、たまたま見ていたその日の写真集ランキングでそのコが1位を飾っていて、それをキッカケに、いまだかつてアイドルの写真集など買った事もないのに写真集を買って、その写真集の出来が良かったから尚更はまって…。初めて見たときから写真集を買うまでにざっと2年近くはかかっているのだけれど、それくらいゆっくりと、1人のコにはまっていった。長い年月だから、最初の頃は、目を奪われたといっても興味がまだ薄く、そのコの載っていた雑誌は他の雑誌と一緒に積み重ねて捨てる準備をしていて、1年くらいして興味が強まったときにまだ捨てていない雑誌の山からそのコの記事を探してみたり、探して見つけた日が丁度そのコの誕生日でおどろいてみたり(←バカ)、なんだかそういうのが積み重なって一層に興味を強くしていった。

その後、そちらの世界に踏み込む(?)事を決定的にしたのが、「インターネット」だった。'98年の秋頃にインターネットをやり始めたとき、そのコの事も検索してみた。興味があったといってもほとんどそのコの事は知らず、一体今までにどういう仕事をしてきているのかもわからない状況だった。

さっそくファンサイト(ファンが運営するサイト)に行ってみた。2つのファンサイトがあった。1つのファンサイトはオタクくさいが情報量が多いフンイキで、もう片方はオタクくさくないけれど情報量がちょっと少ないといった印象を受けた。インターネットを始めたばかりといえども、あまりにオタクくさいサイトに出入りするのはイヤで、しばらくはほとんど触れずにいた。

しばらくしてすぐ、オタクくさいサイトのほうが管理者の諸事情で閉鎖し、それに伴ってオタクくさくないサイトがリニューアルしてトップに踊り出た。リニューアルしたそのオタクくさくないサイトはとてもキレイなデザインに生まれ変わっていて、これなら通ってみたいかなという印象を受け、それからそのサイトによく顔を出すようになる。

自分がインターネットで初めて掲示板に投稿したのはたぶんそのサイトじゃないかと思う。そのサイトは「アットホーム」を売りにしていて、実際にアットホームだった。管理人さんはまったくオタクとは無縁な人で、応援していたコは少しマイナーだったにも関わらず、フンイキ良く運営していた。

そのサイトには掲示板だけでなくチャットもあり、掲示板で常連になりつつあった自分はチャットのほうにもおそるおそる顔を出すようになる。

実はそのサイトには、強烈な「荒らし」が1人来ていた。(以降、その荒らしの事を「K」と呼ぶ事にする。)

Kは、「真性の荒らし」というべきなのか、荒らしをしているという自覚のない荒らしだった。荒らそうと思って荒らしているわけではなく、もともと何か性格に異常を抱えているようで、アイドルのファンでそのファンサイトの情報にお世話になっているのにも関わらず、そのサイトで乱暴な発言をしたり、イタズラをしたりするわけだ。普通の荒らしならば二度と行かないようなページで荒らし行為をして身元を掴まれないようにするものだが、Kは、そのサイトの情報が必要で毎日通っているのに、荒らし行為を繰り返していた。

チャットを初めて利用したとき、そのKも入室していた。乱暴ではあるが非常に活発に発言していた。それとは逆に、一緒に参加していたそのサイトの常連さん(たしか2人くらいいた)は、ほとんど彼を無視してしゃべらない状態だった。

初めて入室した自分は、まさかKが荒らしな人だとは思っていない。Kは掲示板でも活発に発言をしていたので、掲示板を見ていた自分にはこのサイトの常連さんという認識しかなかった。Kは乱暴な口を聞いたが、自分はチャットでのコミュニケーションではこういう事はよくあるものと受け止めて、こちらも初めてで何かしらの不備があるのだろうと、怒られれば謝ったりしていた。

むしろ、まったく発言をしない他の2人組が不審でならなかった。Kはあれこれ質問してきたり話しかけてきたりするのに、他の2人はほとんど自分に話しかけてこず、むしろ冷たい印象なのだ。このとき自分は、Kが良い人で、他の2人が悪い人じゃないかと、まったく逆に認識した。(後に知るわけだけど、Kはよく複数のハンドルで入室して、1人で自作自演などを繰り返していて、初めて入室した自分はKの自作自演キャラじゃないかと他の2人から疑われていた面があったらしい。)

そういうわけで、そのサイトで最初に仲良くなったのが「K」なのだ。Kは毎日そのサイトに来ていて、チャットをのぞけば必ず居るので、いつ行ってもKと出くわす事になった。ただ、最初は気付かなくても、何度も会話しているうちに、さすがに彼がどうもオカシイという事に気付いてきた。

思い出せる彼の症状を箇条書きすると、

・発言が乱暴。文の末尾によく「!!!!!」といった形でエクスクラメーションマークを連発させる。

・自分自身の事をよく「カッコイイ」と言い、こちらの顔についてしきりに訊いてくる。

・こちらの年齢を訊いてきて、低い場合は敬語を使うように指図してくる。(彼の年齢は自分と同い年という話で、しょっちゅうその年齢を口にしていた。常連さんの話では、以前は別の年齢(もっと上)を口にしていたらしい。誕生日だと言っていた日に年齢を訊いてみたら、「俺は○○才だ!!!!!」と、以前と変わらぬ年齢を口にしていた。)

・チャット中に突然、Xの詩を書き出したり、四文字熟語を書き出したりする。それも頻繁に。

・「○○(アイドルを呼び捨て)と俺が…」といった形でしょっちゅう妄想を語る。しまいには、「○○と俺はお似合いだぜ!!!!!」みたいな事を言い出し、Xの詩や四文字熟語を書き出す。

・前の日に話した事でさえもきれいさっぱり忘れている。チャットで話した事を不思議なくらいに記憶していない。面白いくらいに忘れている。

・被害妄想があり、他の人がしばらく発言しないと、「!!!!!」を連発して怒り狂う。

・そのサイトの管理人さんに何度もサイトから締め出されるが、その度に管理人さんにあててメールを書き、反省の文章を書いて許しを請うている。許されて戻ってきた日は縮こまって少しは静かにしているが、次の日になると普段通りの状態に。まったく反省していない。

・「会ってみない?」などの現実的な話をすると途端に弱々しくなり、あれこれイイワケを始めたりする。

・そのサイトだけでなく他のアイドルサイトにも顔を出していて、いくつかのサイトを閉鎖に追い込んでいる。

…他にもいろいろあった気がするのだけど、とりあえず今思い出せるのは以上だ。

どう考えても普通じゃない。普通ではないのだが、なんといっても彼は、チャットでの発言数に限っては他の人をぶっちぎっていた。何か言えばすぐに何かしらの反応を返した。乱暴かつキチガイじみた面を持ちながら、なかなか純粋な面も持ち合わせていた。なので自分は、どんどん彼と親しくなっていく。

管理人さんや自分が来る前からの古い常連さんは、Kの事でだいぶ頭を悩ませていた。自分はというと、ほとんどKとばかり会話していた。Kの異常性にはしっかり気付いていたけれど、彼は非常によくしゃべり、何かしらの話題を次々と提供してくれて、実にスムーズに会話が進むので、他の人よりしゃべりやすかった。Kの異常性も慣れてしまえばひとつのユーモアというか、笑ってしまう部分が多く、自分は彼とは問題なしに上手くやっていく自信があった。

Kは乱暴な発言を多くするので、親しくなるにつれ、彼に対して嫌気がしたりムカついたりする事もあった。そして、人間とはオソロシイもので、自分は、Kと仲良くしておきながら、Kの異常性について他の人とおもしろおかしく話したり、いわゆる陰口を叩いたりした。陰口を叩いて、Kを笑って、どこか楽しんでいた。Kは陰口を叩かれるに足る人物だったかもしれないが、それでも、自分が情けなくなってくる。

その頃の自分は、気持ちが二つに分離していた。Kはマトモではないが、非常に気軽に会話ができた。管理人さんや他のメンバーとも普通に会話をしていたが、彼らはあまり積極的には会話に参加せず、他の作業を同時に行っているようで、Kが居ない状態では自分ばかりが次々発言する事が多いような気がした。Kをバカにしたりいじめたりするような事をしておきながら、会話をするのならKのほうがマシな気がした。

その後、Kは完全に締め出された。たしか、それからしばらくメールでのヤリトリをしていたが、つい、イタズラ心で、偉そうにしている彼に対し、脅すような返信をしたら、それ以降まったく返事がこなくなった。

彼はIPアドレスから佐賀県に住んでいる事がわかっていた。九州でバスハイジャック事件が起きたとき、すぐに彼を連想した。実は最後から2番目か3番目あたりのメールに、「君のような人は2ちゃんねるのほうが向いていると思う。」といった旨の事を書いていたのだ。



そのファンサイトのチャットで、アイドルや芸能人についてとても詳しい人から、それとなく学んでいくうちに、自分もそれなりに詳しくなってきていた。そして他の芸能人もチェックするようになり、その頃には、最初にこの世界に迷い込むキッカケとなったそのアイドルについては、だんだん興味が薄れてきていた。

その後、'00年の1月に別の芸能人のファンサイトを立ち上げて、そこでまたいろんな人達と知り合う。そのまま泥沼にはまっていくかと思いきや、途中で引き返してきて現在に至る。一般人よりは詳しいけれど、本当にマニアな人の足元にも及ばない。

('02年04月03日制作)

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