麻生久美子

麻生久美子さんを知ったのはずいぶん昔だ。まだ普通のアイドルのように雑誌のグラビアに出ていた頃からなんとなくだけど知っていた。知っているだけで特に興味はなかった。ただ、キレイな人だから漠然と脳裏には焼き付いていた。

事件は2000年の7月20日に起きた。なぜ日付けを覚えているのかというと、その日の夕方頃にしたチャットのログが手元に残っているから。

その日は午後に池袋まで眞鍋かをりを見に行っていた。16時くらいに池袋のイベントが終わって、そのまままっすぐ家に向かった。山手線を利用して代々木駅で降り、すぐ近くの自分の家まで歩いていった。

すでに17時になっていた。家の近くの人通りの少ない奥まった道を歩いていると、前方にいつもと違う気配を感じた。そこは小さな交差点だったのだが、何やら4、5人の人がせかせかとせわしなく動いていた。一目見て、ドラマか何かの撮影だとわかった。見物人はまだダレ1人いなかった。

その小さな交差点の向こう側の左のほうに、1人の女性が折り畳みのイスに座っていた。遠目で見ても女優である事がわかった。1人だけキレイな衣装をしていたし、何より彼女の顔が女優である事を物語っていた。側にはメイクさんが立っていて、まだ若いその人の顔に化粧をほどこしていた。

自分はなんの撮影だか気になって、歩きつつもその女優さんの顔を「じっ」と見つめた。彼女は視線を感じたせいかどうか知らないけれど、メイクさんのほうを見て照れ笑いを浮かべていた。もしその場に見物人が集まっていたなら立ち止まっていたのだろうけど、まだまったく見物人はおらず、立ち止まる勇気をもてなかったのでそのまままっすぐ家に帰ってきた。

家に帰ってすぐ、「彼女はダレだ??」という疑問が頭全体をおおった。当たり前だけど、女優や俳優は名札をぶらさげているわけじゃないので、顔を見てダレなのか判断できなければわからずじまいである。すぐにパソコンを起動してインターネットに繋げ、よく利用していたあるチャットに入室する。以下はそのときのログの抜粋。

(わかりやすくするため上から順に読めるように編集しました。)

>> 日テレジェニックを見て来ました。眞鍋かをりとか他3人ほど。[2000年07月20日(木)17時11分42秒 ]
>> はっきりいってツマンナカッタ。[2000年07月20日(木)17時12分07秒 ]

>> 家に帰ってきたら、家の前の道でドラマの撮影してた。[2000年07月20日(木)17時12分36秒 ]

>> どうも中心にいた女のコは麻生久美子さんぽかった。[2000年07月20日(木)17時13分12秒 ]

>> でもギャラリーは1人もいなかったので、ハズカシイからそのまま通り過ぎてしまった…。ちょっと後悔。[2000年07月20日(木)17時14分10秒 ]


…抜粋は以上。

見てわかる通り、このとき自分は先程見た女性を「麻生久美子さんぽかった」と話している。ただ、断定はできずにいた。麻生久美子さんの顔は失礼ながら特徴的ではなく、もともとあまり有名な人でもないからまったく確信を持てなかった。コンビニでの用事を無理矢理に見つけて、また先程の小さな十字路に舞い戻る事にした。

コンビニへ向かう際にさっそく十字路を横切ってみたが、今度は女優の背中しか確認できなかった。そしてコンビニからの帰り道、なんだか急にあの十字路を通るのが気恥ずかしくなって、別の道で帰る事にした。小道を通って十字路の先の道に出て、十字路のほうを少し振り返ってから家に向かった。

ふと見ると道の隅に男2人が座っていた。2人は何やら話をしている。その側には窓の黒いワゴン車がひとつ。

家に帰ってすぐインターネットに繋げてチャットに入室する。


>> さっき外に出たらまだドラマの撮影してた。あいかわらずヤジ馬まったくおらず。[2000年07月20日(木)18時54分07秒 ]

>> でさぁ、その付近に男2人が座りながら話してて、顔をじっと見たら長瀬正敏らしかったよ。[2000年07月20日(木)18時55分33秒 ]
>> もし違ったらかなりのソックリさん。ドラマスタッフが乗ってきたと思われるワゴン車のすぐ後ろにいたから、たぶん彼だと思うんだけど…。[2000年07月20日(木)18時56分59秒 ]
>> 見物人が1人としていないから、自分も立ち止まってじっくり見るのハズカシクテ、行っては帰って行っては帰ってしている。(^^;[2000年07月20日(木)18時58分05秒 ]
>> アホみたいだ…。まだやってる。また見てくるかな。変な人に思われそうだよ…。[2000年07月20日(木)18時59分00秒 ]

…抜粋は以上。

そう、座っていた片方の男がどうも永瀬正敏らしかった。(上では「長瀬」と書いているがその時に実際「長瀬」と書いていたのでそのまま掲載。)永瀬正敏といえば有名だし、CMなどで本人の顔を頻繁によく見るし、特徴もしっかりしているので間違いようがない。…それなのに、それなのにまだ半信半疑だった。「ソックリさんじゃないか?」と疑っていたのである。それくらい「まさか!」といった感じだった。

そしてバカみたいに再び確認しにいく。今度は近所のスーパーまで買い物をしに行った。

家から通りに出て数メートル歩いたところの道端に、缶コーヒーだか缶ジュースだかを片手に先程と同じ格好で座っていた。今度は確実に本人かどうか確認しようと思い、歩きながら「じっ」と彼の顔を見つめた。男は表情を微動だにせず、ただまっすぐ一点を見ていた。間違いなく永瀬正敏だった。顔で確信したのではなく、その立ち居振舞いで確信した。

スーパーへ行くためのわき道に入った瞬間、興奮からつい走り出した。もうこの時は女優のほうの事なんてどうでも良くなっていた。そんな気持ちになったのはたぶん永瀬正敏だったからだと思う。もし他の俳優、たとえば木村拓哉とか反町隆史とかであれば、ここまで興奮する事はなかった。

何よりシチュエーションが良かった。たとえばもし見物人がたくさんいて、まるで見世物小屋のような状態だったなら、自分は見物人に混じって「あ、永瀬正敏じゃん」と思っただけで終わっていたかもしれない。けれど実際はダレ1人として見物人がおらず、ホンモノの永瀬正敏かどうかさえ半信半疑の中、その中でなんとかホンモノである事を確認したのだから、「マジで!?」という気持ちがとても強く、その「マジで!?」という気持ちが強いぶんだけ興奮も強く、走り出して然るべきなのだ。

スーパーから帰ってきてすぐインターネットに繋げてチャットに入室する。


>> 長瀬正敏だったよ!本物だよ!まだすぐそこにいるよ![2000年07月20日(木)19時28分26秒 ]

>> でも見物人がほんとにいなくて、近くでじっくり見るのがハズカシイ。すっげえ弱気。(^^;;;[2000年07月20日(木)19時29分21秒 ]
>> もう一度見てくるか。でもなぁ…。(苦笑)←イクジナイヤツ[2000年07月20日(木)19時30分18秒 ]

…。

このあと20時か21時あたりに1度だけ外の様子を見に行った。すでに日が暮れて外は真っ暗。例の十字路から撮影の照明の光が漏れてきていて、遠巻きにその光を確認してからすぐ家に戻った。その十字路には弁当屋があるのだけど、どうもその弁当屋で撮影をしているらしかった。

たしかその日のうちに永瀬正敏のファンサイトの掲示板にその日起きた事を報告した。映画にしても音楽にしてもテレビゲームにしても、興味のない相手に興奮を伝えるのはムズカシイ。「あっそう」で片付けられるのが目に見えているから、ついこちらも身構えてクールに語ってしまったりする。だからこういうとき、ファンサイトで興奮した気持ちを理解してもらえるのは、とてもありがたい。

このファンサイトの管理人さんの情報で、自分の見た撮影ロケが何かの映画のものである事を知る。(たしか2種類の映画のうちのどちらかの撮影だろうという話だった気がする。)その次の日あたりにも近くの神社で撮影したらしく、ロケを目撃したという投稿が届いたりしていた。

それからしばらく、この事はまったく忘れて人生を過ごす。

しかし、いつまでも忘れているわけにいかなかった。あるとき急に思い出した。まだひとつ謎が残っていた事を。あの十字路の女優は一体ダレだったのか。

「永瀬正敏 麻生久美子」で検索してみた。数件ヒットした。その中に「贅沢の骨」はあった。

はたしてあの交差点で見た女性は麻生久美子であった。あの撮影ロケは映画「贅沢の骨」のものだった。真実を知ってまず初めに思ったのは、「やっぱりあれは麻生久美子だった!」という一言につきる。麻生久美子に特に興味があったわけではなく、名前自体うっすらとしか記憶がなかったはずなのに、少し見ただけで「麻生久美子さんかな?」と考えた自分の無意識の記憶と認識力にオドロイタ。そして、無意識に記憶しているくらいに彼女の残像が脳にひっついていた事にもオドロイタ。

たしかにキレイな人ではあるけれど自分のタイプではない。というより、世界の違いを感じてしまう。彼女を見て思い出すのは、自分が20歳の時に遊びに行ったラスベガスでの出来事だ。

20歳の時、3、4日ほどラスベガスに遊びに行った。豪華なホテルに宿泊し、町の隅々を周ってきた。何日目だったか忘れたけど、週末を迎えて普段より多くの人達を見かける日があった。その日、ホテルのエレベーターの前でしばらく人を待つ機会があって、ドレスアップした男女がエレベーターに出たり入ったりしているのを興味深く眺めていた。

ドレスアップといっても黒のタキシードやドレスでシックにきめている人が多かった。外人のあのスタイルに黒の服は凶悪で、ますますスタイルが美しく映えるので、典型的な日本人体型である自分が情けなってしまうくらいだった。

ラスベガスという特異な場所のせいか、「おいお前、それはあきらかにシリコンだろ」という異常なバディーの女性も見かけた。まぁそういう例外はあったにしても、足が長くスラリとしていて、優雅な身のこなしをしている人が多かった。(余談ではあるが、これを見たあと日本に戻ったら、普段見慣れている日本の雑踏がまるで「猿の群れ」に見えた。短い足でちょこちょこ歩くだけでも猿に見えなくないのに、背中を丸めて「がに股」で歩かれた日には猿としかいいようがなくなってしまう。外人に比べて体格のハンデはあるけれど日本人も皆キレイにかっこよく歩いてもらいたい。自分も心がけて歩いている。)

話を戻して、そんなふうにエレベーターを出入りする男女を眺めていた自分であったわけだが、そんな中、ある日本人の若い女のコがエレベーターから降りてくるのを目撃した。ぱっと見た瞬間、「なんてキレイな人だろう…」と思わずにいられなかった。

そのコは周りと同じように黒のドレスを着ていた。ふと目で追うと、その場の他の女性のように、ドレスの後ろがはだけていて背中の肌の全面が露出している事に気付いた。自分はそれを見た。

もう、なんというのか、心から「キレイだ!」と叫びたくなるような光景だった。黒のドレス、しかも背中の肌が露出したドレスを、美しく着こなす若い日本女性、特に自分にとってみれば同世代の女性であるわけだけど、あんなキレイに、ごく自然と、まるで外人のごとく着こなしている人は初めて見た。同じ日本人、同じ世代でありながら、まるで別世界の人だった。

その人はそのあとフロアーで待ち合わせしていたらしき同年代くらいの白人の男のコ2人と笑顔で会話しながらどこかに去っていった。自分は日本人体型だし、英語もよく話せないし、(そのときは普通の服装だったけど)黒のタキシードなんて似合いそうにないし、その人とのスゴイ「格差」を感じた。同じ日本人でありながら…。

麻生久美子さんはそのとき見たラスベガスの日本人女性に重なってみえる。ラスベガスの豪華ホテルの何十階何百階とも知れぬエレベーターから黒のドレスで降り立つ麻生さんの姿を想像してほしい。まるで別世界の人に見えやしないだろうか?同じ日本人だったり同じ世代だったりするのに、同じ領域に属するものと思えない「何か」を感じる気がしてならない。「感じない」という人は少なくとも背中を丸めてちょこちょこ歩いたりはしていない…。

「贅沢の骨」はいつか見ようと思っていた。いつか見よう、いつか見ようと思っていてようやく今年3月下旬にビデオを借りてきた。(遅くて申し訳ない。)

見た感想。

個人的にもっている「麻生久美子さんのイメージ」に比較的合った作品かと思う。例の弁当屋のシーンもしっかり出てきた。新宿近辺で撮影したものが多いようで記憶にある建物や道、横断歩道をけっこう目にした。

麻生久美子さんの他にもう1人、つぐみというコがヒロインを演じている。このコと永瀬正敏と麻生久美子の3人を主体にして、物語が進行していく。

予想に反してけっこうHなシーンが織り交ざっていたので、そのほとんどは早送りさせてもらった。つぐみのシーンだけは何か重大な意味合いがありそうだったから早送りせずにチェックした。

映像がとても気に入った。まるで夢に見た、脳の記憶の断片の「良い部分」だけを吸着して制作したような感じだった。たぶん監督がなんとなく「これだ!」と感じた場所やモノをとりあえず撮影して、それを継ぎ接ぎしているんじゃないかと思うのだけど、それにしてもよくあの弁当屋に目をつけたものだ…。あんな一見しょぼそうな素材が、映画の中で上手く料理されキレイになっていて、「映画監督になるだけあるんだな」と感心した。(自分の映像の好みとしてはあまりにディテールに凝ってクドイものよりも素朴でシンプルな中にキラリと光るもののある映像のほうが「↑」。)

とにかくキレイな映像だと思った。屋上の場面も動きと色合いが気持ち良かった。もしこのままマンガになったなら、部屋に1冊置いていると思う。というより、こういうマンガを描きたいくらいだ。(いや、ムリだし、絵は下手。)

この映画には納得した。ロケに出くわしたのをキッカケにして見たわけだけど、ロケに出くわしたのを後悔せずに済んだ。出くわして良かった。

ただ、失礼ながら、新作のほうはあまり見る気がしなかった。映画の終了後に予告編で流れていたのを見たのだけど、自分の考えるイメージにそれていた。あの役は個人的には「黒のドレスの似合わない日本女性」でも良かった気がする。(実際に見ればそんな違和感はないやもしれぬが、食わず嫌いであえて言わせてもらう。)

自分の勝手なイメージ(いわゆる「決めつけ」)でとても失礼なのだけど、最後に彼女に演じてもらいたい役柄を書いて終わらせたい。

これはやはり先程から言っている「黒のドレスが似合う・似合わない」に起因するのだけど、麻生さんには「海外ドラマのようなフンイキをもったドラマ(映画)」に出演してもらいたい。たとえば「ビバリーヒルズ青春白書」「アリー・myラブ」のように、恋愛で男をとっかえひっかえしつつも仕事などしっかりこなして自立している女性、というのがぴったりくる気がする。サバサバとした大人の女性でありながらキュートな一面を見せ、ときに笑わせてくれる…って、そのままアリー・myラブの主人公なのだけど、そういうのが良い。あとは「ダーク・エンジェル」のような、遺伝子操作を受けて万能に育った女性の役柄も似合いそうな気がする。顔にソレっぽい美しさを感じるし、肩や足などの骨格からしても身体能力の高そうな感じがしなくはないので、実際にアクションをこなす力さえあれば、そういった「スーパーヒロイン」の役もやれなくないのでは?と思う。

現実的にはそういった役はしないだろうし、日本のドラマにおいて海外ドラマをマネて上手く成功した例も少ないので、(成功した例があってもまったく別物にしか見えなかったりするので、)麻生さんはこの先まったく別の方向に進んでいく気がする。けど、今の仕事のままでは、たとえば「RED SHADOW 赤影」などは自分にはまったく興味が持てなくて、麻生久美子に注目していてもなかなかチェックがままならないでいる。もし麻生さんの仕事と自分の趣味がそろうようになってくれば、当然のこと今よりもっとチェックするようになるのだろうけど、はたしてそれが世の中全体のために良い事だとは思えないし、というのも、今の麻生さんのキャラクターと仕事を愛している人もいるのであって、この女優さんは今後も自分にとって、応援しているような応援していないような微妙な存在として、残っていく気がしている。

新作もそのうち見るような気がする。(本当に新作だったか怪しくなってきた。旧作をDVDで発売するという宣伝だったかもしれない。)

(追記)
あらためて読み返すと、仕事批判など、もし本人が読んだらヘコんでしまいかねない事を言っていて、「ああッ!(頭を抱える)」という感じです。本人をヘコますような事は自分の本意ではありません。それこそ最悪というか、自分がヘコみます。「RED SHADOW 赤影」の批判をしているけれど、批判しておきながらも、この文章を書いたのをキッカケにして何気にチェックしてみたりしています。



参考:インターネットで見つけたある個人の「贅沢の骨」批評←ネタバレ有りまくり
参考:映画「ひまわり」の公式サイト←掲示板が意外と賑わっている
参考:K/A Online←麻生久美子さん公認のファンページ

('02年04月12日制作)('02年04月30日追記)

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