ブックエンド

利根川洋二はとある進学校の学年一の劣等生。テストでは親友の南原哲とともに最下位と最下位から2番目のワンツーフィニッシュをいつも決めている。年の離れた兄、利根川周一は洋二の通っている学校を卒業、創立以来の秀才といわれ東大理三をストレートで合格、スポーツ万能な上にそのカッコの良い容姿から学生時代はモテモテだった。しかし20才にして突然医学部を辞め、アメリカ先住民の格好をして変人的な暮らしを開始。今では昔の面影はない。

2人の父親、利根川正勝は家の隣にそびえ立つ利根川総合病院の現院長。悩みは成績優秀で頼りにしていた長男が大学を辞めてしまった事、そして次男の成績が芳しくない事の2つ。このままでは病院を継いでもらえず、今は次男の洋二のがんばりに期待するしかない。小心で情けない男。

母、利根川さち子は8年前に若くして他界した。突然のクモ膜下出血であった。

3人は同じ家で暮らしていた。

1人の女のコがいた。名前は都築さおり。12才のときに発病し、4年もの間、利根川病院で入院していた。双生児の兄、都築シンヤは12才のときにさおりと同じ病気が原因で死んでしまった。洋二とシンヤとさおりは幼なじみで、特に洋二とシンヤは大の仲良しだった。

さおりはウソつきで生意気でへそ曲がりな性格に成長していた。しかし見た目はキレイでかわいい顔をした女のコ。彼女は事あるごとに騒動を起こす。

病院に訪れた洋二にさおりは言う。「ヨッチ(さおりは洋二の事をこう呼ぶ)のお兄さんいい男ね、ゾクゾクするわ。」

それがすべての始まりだったのかもしれない。

…。

この作品は'98年から'99年にかけてビッグコミックスピリッツに連載された紫門ふみの作品。紫門ふみといえば「東京ラブストーリー」「あすなろ白書」「お仕事です」「Age,35」「九龍で会いましょう」などが有名で、いずれの作品もTVドラマ化している。(ただし、「ブックエンド」に関してはまだTVドラマ化されていない。)

作品を見た事のある人ならわかるが、いずれも大学生もしくは社会人を中心としたストーリーになっており、やや大人向けの印象があるのだが、ただ唯一、このブックエンドのみが、高校生を主体にしたストーリーとなっている。

自分がビッグコミックスピリッツ(以下スピリッツ)を読み始めたのはたしか高校生の頃だった。あやふやな記憶であるが、当時まだスピリッツで紫門ふみが「お仕事です」の連載をしていたかと思う。なぜスピリッツを読み始めたのかといえば、以前に「寄生獣」という作品を描いていた岩明均が、新作の「七夕の国」をスピリッツの中で連載していて、それがどうしても気になったからだ。といっても読みたいのはその1作品だけで、しかもその1作品である七夕の国がたしか「隔週」で連載していたものだから、毎週立ち読みで済ませていた。

立ち読みで済ませていたのだが、当時自分の読んでいたマンガ誌はこのスピリッツと少年ジャンプの2つだけで、スピリッツのようないわゆる青年誌を手にするのはこれが初めて。最初は興味のある「七夕の国」からスタートし、じょじょに他の読めそうなものも読むようになり、最終的にはスピリッツの作品のほとんどを読むようになった。(ただ、絵柄の汚い作品や、あまりに単調な作品は今でも読んでいない。)

しばらくスピリッツと少年ジャンプばかりを読む日が続き、何年も経ってようやく他の青年誌も少しだけ目を通すようになった。しかし今でも基本的にはスピリッツと少年ジャンプしか読んでいない。

スピリッツを読むようになったのは先にも書いた「七夕の国」の影響が何より大きいのだが、スピリッツを読んでいて「あ、いいな」と初めて思ったのは、この「ブックエンド」である。「ブックエンド」は紫門ふみが「お仕事です」の次に連載し始めたもので、実をいうと「お仕事です」に関してはちっともオモシロイとは思っていなかったのでブックエンドについては「予想だにしない出会い」といった感じであった。

「お仕事です」は働く若い女性3人を主体にした話で、紫門ふみのシンプルな絵のおかげで読みやすくはあったのだが、当時の自分の立場ではいかんせん感情移入がし難く、「なかなか含蓄のある内容だけど興味は持てない」といった感想を持った。一応は読んでいた。

「ブックエンド」が始まったとき、まず最初、その「ブックエンド」という響きがオモシロイと思った。聞き慣れない響きなので辞書で調べてみたら、並べた本が倒れないように両端に立てて押さえるものをブックエンドというとかで、第1話にて12才で死んだ都築シンヤが、ブックエンドという言葉を用いてちょっとした詩を読んでいて、「あ、こういう関係ってカッコいい」とすぐに思った。そこでちょっと興味を持った。

利根川洋二が劣等生、兄の利根川周一が秀才ながら変人という設定も興味を強くするキッカケとなった。父親の利根川正勝もなんだかアヤシイ動きをしているし、都築さおりも生意気ながら非常に上手いバランスで描かれていて、先が気になる展開になっていた。「お仕事です」と比べると感情移入もしやすかった。

利根川周一は先住民の格好をしていて変なのだが、ルックスは普通にカッコ良い。というより、読めばわかるのだが今でもかなりモテている。彼がなぜそんな変人になってしまったかは、結果として最後わかるようになっている。

この話は結局、単行本2巻分のところで最終回を迎えた。読者を惹きつける仕掛けがけっこうあり、自分は最後の最後までとても楽しみにして読む事ができた。

読み終えたとき、というより読み終える前からこの作品は自分にとって心に残る作品になりそうな気がしていたが、特に最終回に至っては、非常に胸に痛くオモシロイ話に仕上がっていて、「うわわわわ」という感じだった。他の人にはどうか知らないけれど自分にとったらこれ以上ない終わり方。最高だった。

紫門ふみの絵は失礼ながらあまり美麗というわけではなく、絵柄で「萌え」たりする事はないように思うのだが、しかし、表情やしぐさが上手いこと描き分けられていて、想像で「萌え」の部分を補完しやすい。もし自分がマンガを描くとしたらこの人の作風をまず初めにパクると思う。それくらい好き。

ブックエンドの終了後には「九龍で会いましょう」の連載が始まった。また社会人の話に戻り、自分も「お仕事です」のときと同じ状況に戻った。つまり、「なかなか含蓄のある内容だけど興味は持てない」といった感想を持った。

たぶん自分が紫門ふみの作品で心に留めておくのは、この先ずっと「ブックエンド」しかない気がする。なぜかこの作品だけは好きで、他の作品にはあまり興味を持てない。まぁそれで良いと思う。この作品をキマグレにでも生み落としてくれた紫門さんには、本当に感謝したい。



参考:Amazon.co.jp/ブックエンド1巻←購入を考えるなら。
参考:Amazon.co.jp/ブックエンド2巻

('02年05月06日制作)

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